平岡公彦のボードレール翻訳ノート

ボードレール『悪の華[1857年版]』(文芸社刊)の訳者平岡公彦のブログ

まさに奇跡の名曲――アミュー『この音とまれ!』作中オリジナル箏曲「龍星群」を聴く

ジャンプSQ.』の公式HPで公開されているアミューの『この音とまれ!』(ジャンプ・コミックス)の作中オリジナル筝曲「龍星群」を聴いた。
 

この音とまれ! 5 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 5 (ジャンプコミックス)

 
 もう10回以上は動画を観たと思うが、何度観ても目のまえの映像が信じられない。最初に観たときはただただ圧倒されて呆然とし、二度目に観たときは自然と涙が出てきた。いま観ても油断するとちょっと涙ぐんでしまう。そうだ! 私はこういう曲が聴きたかったのだ! 私が待ち望んでいたのはまさにこの曲だ!! まだ観ていない方はとにかく一度観てきてほしい。原作のコミックスを読んでいない人でも、おそらく一発でそのすごさがわかるはずだ。それくらいすばらしい曲であり、見事な演奏である。
 

 
 まさか、まさかこんなことが現実に起こるとは!! いや、ある意味ではまったく想像どおりのものがこの上なく精確に再現されているのだ! 私はなによりそれが信じられない。どうしてマンガのなかに登場する曲を、それも歌ではなくインストゥルメンタルの曲をイメージどおりに作曲するなどというとんでもないことができるのだろう? 私には作曲の才能がまるでないので想像もつかない。ほんとうに夢ではないのだろうか?
 
 動画中の「奇跡の完全再現」というコピーにはまったく誇張はないと断言できる。十七絃の橋本みぎわが弾いているのは、まぎれもなく鳳月さとわが弾いていたあの「孤独な龍の泣き声」だし、一コトのいぶくろ聖志が弾いているのは、まぎれもなく久遠愛が弾いていたあの「あの世とこの世をつなぐソロ」だ。これならたしかにさとわがハートを撃ち抜かれるのも無理はない!(笑) 以前にこのマンガの書評を書いたとき、「架空の曲をどんなに見事に弾くシーンを描いたって、そんなのファンタジーじゃないか」とケチをつけたけれども、まさかこんなかたちで逆襲されるとは! これなら気持ちよく負けを認められる。私が悪かった! 降参だ!(笑)
 
 いや、ひょっとすると、じつはこの曲はこのマンガが生まれるまえからあって、あの演奏のシーンはこの曲をイメージしながら描かれたのではないか? そう考えたくなるほどの完成度と説得力である。これなら絶対に観客は「うおおおおおおおっ!!」ってなる(笑)。ジャンプSQ.編集部の公式twitterによれば、十七絃を弾いている橋本みぎわは作者アミューのお姉さんだそうだし、すべてはじめから計画されていたのではないのかと勘繰りたくもなる。しかし、どうやらそんなことはないらしい。それにしても、聴けば聴くほど、いったいどちらが再現なのかわからなくなってくる!!
 
 私の書き方をオーバーすぎると思う方もいるかもしれない。だが、私は大げさに書いているつもりは少しもない。ほかにもたとえば、作中で「ザアアアア」とか「ダラララ」とか「グアアアア」とか、それだけ抜き出してみるとかなり残念な(失敬)オノマトペで表現されているパートが、ほんとうにそんな感じに演奏されているのだ。しかも驚くべきことに、それがかっこいい! 「ザアアアア」とか「ダラララ」とか「グアアアア」なのにちゃんとかっこいいのだ!!(笑) まったく、どうなっているんだこれは!
 
 そう、古臭くもなく、ダサくもなく、しみったれてもなく、かっこいい!! まさか箏の曲をかっこいいと感じる日が来るとは私は夢にも思わなかった! だが、それでいて、よくあるような現代のポップミュージックにおもねっているのが見え見えの浅薄な曲では断じてない。そんな要素は微塵もない。あくまで素人としての印象だが、むしろ愚直なまでに伝統音楽としての筝曲の精神に忠実な曲であると感じた。もちろん、西洋クラシックや現代音楽の影響、とりわけピアノやアコースティックギターの楽曲からの影響は強く感じる。だが、それを軸として支え、まとめているのは、まぎれもなく筝曲の伝統への尊敬と愛である。それが受け継がれた技への揺るぎない誇りとなり、この曲に気品と格調を与えている。そう、これは気高い曲だ! それがなにより私の胸を打つ。
 
 度を超した真摯さは、時として歴史と時代への先鋭な反逆となる。箏だって? いまさらそんなものを弾いてどうしようというのだ? ちがう。そうではない。いまだからこそ箏なのだ! いま箏でいい曲を作り、弾いて見せてこそすごいのだ! この「龍星群」は、それまでマンガのなかだけの夢物語にすぎなかった時代の流れへの反逆を、これ以上は望めないほど見事なかたちで現実のものにしてしまった一つの事件である。大げさではなく、ほんとうにこの曲によって日本の音楽の歴史が変わるかもしれない。聴くがいい。この曲を織りなすすべての音が「箏よ、おまえは美しい」と謳っている!!
 
 最後に、この曲を創作した関係者のみなさんに心から感謝したい。いい曲を聴かせてくださってほんとうにありがとうございます。だが、あなたたちの仕事はまだ終わっていない。まずはいま制作中の「久遠」である。予告動画を観た限り、こちらもとてもいい曲に仕上がりそうでうれしい。「久遠」の次には、「龍星群」の第二章と第三章を完成させてほしい。そうだ、作中のさとわの説明によれば「龍星群」は第三章まであるはずだから、まだ「完全再現」じゃないじゃないか! さっき「誇張はない」と書いたが、やっぱり取り消すっ!!(笑)
 
 そのあとには、源がチカにはじめて教えた無題曲と、さとわの「失格演奏」にもぜひ挑戦してほしい。この2曲を読者の納得する曲に仕上げるのは「龍星群」以上に困難だろうが、みなさんにならできると信じている。そして、これに「六段の調」と「二つの個性」が加われば、もう充分にコンサートができるはずだ! CDのアルバムだって出せる! 出たらもちろん私は買うぞ! なんなら何枚か買って知り合いに配ってもいい!!
 
 そう、すべてはこれからなのだ! 「龍星群」を作ったからには、もうこれくらいとことんやらなければだめだ! 私たちに新たな歴史が生まれる瞬間を見せてくれ!! 時代はきっとついてくる。この流れを止めてはならない。以前の書評に「富山市内の書店でぜんぜんコミックスを売っているのを見かけない」と書いたが、いまはもうそんなことはないぞ! ちゃんと発売日――の翌日(怒)に何冊も書店に並んでいる。心配はいらない! 忙しくなるだろうが、それは自分たちの撒いた種だと思って諦めてもらうしかない(笑)。
 
この音とまれ!』コンサートが実現したら、私は必ず行く。仕事を休んででも絶対行く!!(笑) はやく私たちに次なる奇跡を、さらなる奇跡を見せてほしい。
 

この音とまれ! 1 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 1 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 2 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 2 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 3 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 3 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 4 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 4 (ジャンプコミックス)