翻訳
韻 文 訳悪 の 華1861年版シャルル・ボードレール平岡公彦訳© 2021-2023 Kimihiko Hiraoka 申し分なき詩人 完璧なフランス文学の魔術師 こよなく親愛と敬愛を寄せる わが師にして友 テオフィル・ゴーティエに 最も深き謙譲の 気持ちとともに 私は捧げる これ…
敵(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 わが青春は、輝かしき陽光もあちこちに 通り抜けた暗澹たる雷雨でしかなかった。 落雷と雨のもたらした荒廃にさらされた私の庭に、 残ったものはごくわずかな紅緋色の実だけだった。 いまやこの私も理念…
けしからぬ修道者(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 昔日の修道院にある回廊の大きな壁には、 聖なる真理が壁画に描かれて並んでいた。 その効果は、敬虔なる胎を温め直しては、 その謹厳さの孕む冷たさを和らげていた。 キリストのまいた種…
前回公開したボードレール『悪の華』第8の詩「魂を売るミューズ」の韻文訳に、誤訳を発見してしまった。 今回の誤訳も、些細な解釈のズレや微妙なニュアンスのちがいのようなものではなく、確認不足と勉強不足によるごまかしようのないまちがいだった。それ…
魂を売るミューズ(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 おお、わが心のミューズよ、宮殿に恋い焦がれる人よ。 君のもとには、一月がボレアスたちを放す頃、 雪の降る晩の黒い退屈がずっと続くあいだに、 紫色になった二本の足を暖める燃えさしは…
病を得るミューズ(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 わが不憫なミューズよ、ああ! 今朝はどうしたんだ? 落ちくぼんだ君の両目に、夜の幻が住みついているよ。 それに君の面持ちにも、冷たく無口になった 狂気と怖気が、代わるがわる映って…
灯台(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 ルーベンス、忘却の河、自堕落の庭、 そこはだれも愛せぬ瑞々しき肉の枕。 それでも流れ込み、絶え間なく立ち騒ぐ生命。 空に満ちる空気や、海に満ちる海水のように。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、奥深…
無題(私が愛するのは、……)(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 私が愛するのは、フォイボスが彫像を黄金に 染めるのを好んだ、あの裸の時代の思い出だ。 その頃は、男も女も立ち居ふるまいも機敏に、 嘘もなく、不安もなく、楽しく過ごしてい…
照応(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 自然とは一つの神殿。そこに生きる柱たちは、 時折、混迷した言葉を芽生えさせた。 そこを訪ねる人間は、親しげな視線で見守る、 象徴たちの森林のなかを通り抜ける。 遠くから響いて混ざりあう長き木…
上昇(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 いくつもの沼を越え、谷を越え、 いくつもの山を、森を、雲を、海を越え、 太陽の彼方、エーテルの彼方へ、 星々をきらめかせた天球の果ての彼方へ。 わが精神よ、おまえは機敏な動きで進む。 陶然と波…
シャルル・ボードレール生誕200周年を機に『悪の華(1861年版)』の韻文訳に取りかかり、前回「アホウドリ」の新訳のために改めて「L’ALBATROS」の原文を読み直した。この詩は初版の1857年版には収録されていないため、しっかりとすみずみまで読んだのは今回…
アホウドリ(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 しばしば、気晴らしに船乗りたちは、 海の巨鳥、アホウドリをつかまえる。 こののんびり屋の旅の道連れたちは、 苦汁の淵を滑りゆく船についてくる。 船乗りたちが甲板に置いたとたんに、 この蒼…
祝福(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 至高なる者の力能の命により遣わされる、 詩人がこの退屈な世界に姿を現すに際し、 彼の母親は恐れ慄き、心を冒瀆に満たし、 憐れみ給う神に向け、拳をわななかせる。 ――「ああ! こんなお笑い種を養う…
読者に(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 愚行と、誤謬と、罪悪と、吝嗇とが、 われらの精神を占領し、肉体までをも変容させる。 かくして乞食が虱の類を養うごとく、 われらは愛すべき悔恨に餌を与えるというわけだ。 われらの罪悪は頑固だ…
「どの翻訳を選ぶか――ボードレール『悪の華』の邦訳の誤訳について」がずいぶんと好評だったので、調子に乗ってもう少し続きを書くことにしよう。幸か不幸か、ボードレールの『悪の華』の誤訳についてはまったくネタに不自由することがない。すでに『悪の華…
今年アニメ化された押見修造の『惡の華』(講談社コミックス)のおかげで、ボードレールの『悪の華』にふたたび注目が集まっているようだ。訳者の一人として、喜ばしく思う。 惡の華(1) (少年マガジンKC)作者:押見 修造講談社Amazon 押見の『惡の華』は読ん…