2022-01-01から1年間の記事一覧
敵(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 わが青春は、輝かしき陽光もあちこちに 通り抜けた暗澹たる雷雨でしかなかった。 落雷と雨のもたらした荒廃にさらされた私の庭に、 残ったものはごくわずかな紅緋色の実だけだった。 いまやこの私も理念…
けしからぬ修道者(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 昔日の修道院にある回廊の大きな壁には、 聖なる真理が壁画に描かれて並んでいた。 その効果は、敬虔なる胎を温め直しては、 その謹厳さの孕む冷たさを和らげていた。 キリストのまいた種…
前回公開したボードレール『悪の華』第8の詩「魂を売るミューズ」の韻文訳に、誤訳を発見してしまった。 今回の誤訳も、些細な解釈のズレや微妙なニュアンスのちがいのようなものではなく、確認不足と勉強不足によるごまかしようのないまちがいだった。それ…
魂を売るミューズ(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 おお、わが心のミューズよ、宮殿に恋い焦がれる人よ。 君のもとには、一月がボレアスたちを放す頃、 雪の降る晩の黒い退屈がずっと続くあいだに、 紫色になった二本の足を暖める燃えさしは…
病を得るミューズ(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 わが不憫なミューズよ、ああ! 今朝はどうしたんだ? 落ちくぼんだ君の両目に、夜の幻が住みついているよ。 それに君の面持ちにも、冷たく無口になった 狂気と怖気が、代わるがわる映って…
灯台(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 ルーベンス、忘却の河、自堕落の庭、 そこはだれも愛せぬ瑞々しき肉の枕。 それでも流れこみ、絶え間なく騒ぎ立つ生命。 空に満ちる空気や、海に満ちる海水のように。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、奥深…
前回韻文訳を公開した、シャルル・ボードレールの『悪の華』の5番めに収録されている無題詩は、三島由紀夫にとっての『潮騒』(1954年)のような作品だったのではないかと私は考えている。 潮騒 (新潮文庫)作者:三島 由紀夫新潮社Amazon 三島由紀夫も、代表…