平岡公彦のボードレール翻訳ノート

ボードレール『悪の華[1857年版]』(文芸社刊)の訳者平岡公彦のブログ

哲学と文学の距離――いとうせいこう/千葉雅也「装置としての人文書――文学と哲学の生成変化論」を読む

 前々回、千葉雅也の『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)の書評の続きを書くと予告してから、またしてもずいぶんと間が空いてしまった。
 

 
 このまま放り出してもいいかなとも思っていたのだが、私もわからないままでは気持ちが悪いので、この間も『動きすぎてはいけない』関連の書評や対談が雑誌に載るたびにチェックはしていた。しかし、困ったことにそれでも私の理解は一向に前進しない。にもかかわらず、私が途方に暮れているあいだに「わかっている人たち」のあいだで千葉の本は名著としての評価を確かなものにしつつあり、さまざまな人文書の賞を総なめにせんばかりの勢いである。なんだか、私だけが世のなかのトレンドから取り残されているようで寂しい。その憂さ晴らしも込めて(笑)、私は納得いくまでとことんソクラテスでありつづけようと思う。
 

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まさに奇跡の名曲――アミュー『この音とまれ!』作中オリジナル箏曲「龍星群」を聴く

ジャンプSQ.』の公式HPで公開されているアミューの『この音とまれ!』(ジャンプ・コミックス)の作中オリジナル筝曲「龍星群」を聴いた。
 

この音とまれ! 5 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 5 (ジャンプコミックス)

 
 もう10回以上は動画を観たと思うが、何度観ても目のまえの映像が信じられない。最初に観たときはただただ圧倒されて呆然とし、二度目に観たときは自然と涙が出てきた。いま観ても油断するとちょっと涙ぐんでしまう。そうだ! 私はこういう曲が聴きたかったのだ! 私が待ち望んでいたのはまさにこの曲だ!! まだ観ていない方はとにかく一度観てきてほしい。原作のコミックスを読んでいない人でも、おそらく一発でそのすごさがわかるはずだ。それくらいすばらしい曲であり、見事な演奏である。
 

 

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切断の原理と肯定――千葉雅也『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』を読む2

 前回の『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)の書評を著者の千葉雅也さんご本人が読んでくださったようだ。おかげでやる気が出たので、続きを書いてみた。
 

 
 誤解のないように最初に断っておくけれども、前回わからないと言ったところは、謙遜でも皮肉でもなく、ほんとうにわからない。考えに考えて、「これはこういうことだろうか?」とそれらしい解釈を思いついたところも、あとで考えなおしてみると、ただわかったと思い込みたいがためにひねり出した屁理屈じゃないかとさえ思えてくる。今回もずっとそのくり返しだ。だが、ただどこがどうわからなかったかを書き連ねているだけの記事でも、著者ご本人が読んでくださるなら、もしかするとどこかでそこのところをわかりやすく説明していただけるかもしれない。それならこの長ったらしい記事も無駄ではないだろう。以下、敬称は省略する。
 

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千葉雅也の問題作――千葉雅也『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』を読む1

 紀伊國屋書店が主催する「紀伊國屋じんぶん大賞2013――読者と選ぶ人文書ベスト30」の大賞を受賞した哲学者の千葉雅也のデビュー作『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)を読んだ。
 

 
 この本は昨年2013年に刊行されたときに購入し、年内には読み終えていたのだが、うまく感想を整理することができなくて、書評を書くのがずいぶんと遅くなってしまった。やる気が起こらなかったせいもある。一昨年くらいから哲学そのものに限界を感じていて、本書も「こんなものを読んでいてなんになるのだろう」と思いながら読んでいた。とはいえ、いままでずっと続けていた学問を放棄するというのは、それはそれで勇気がいることである。いまのところ私にはそのふんぎりがつかない。だからおそらく、しばらくはこんな調子でダラダラとこの手の本の感想を書き続けることになるだろう。皮肉な話だが、その意味で本書の「切断の哲学」というテーマには興味を引かれた。
 

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名曲は不滅である――highfashionparalyze/GASTUNK/矢野沙織/DEAD END

 先週11月2日に、名古屋のAnoterInfernoで毎月開催されているhighfashionparalyzeのヴォーカリストkazumaさんのバーイベント、BlindFleshLounge riz-knight vol.25にお邪魔してきた。
 
 そこでkazumaさんから直接YouTubeで公開しているライブの動画をシェアしてくれと依頼されたので、ここで紹介しよう。hfpの音源の発表は1st single「spoiled/蟻は血が重要である/形の無い 何よりも 愛したのは お前だけが」以来2年ぶりだ。それにしても、最新の音源がライブ映像とは! ファンとしては最高の幸せである。
 

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