平岡公彦のボードレール翻訳ノート

ボードレール『悪の華[1857年版]』(文芸社刊)の訳者平岡公彦のブログ

名曲は不滅である――highfashionparalyze/GASTUNK/矢野沙織/DEAD END

 先週11月2日に、名古屋のAnoterInfernoで毎月開催されているhighfashionparalyzeのヴォーカリストkazumaさんのバーイベント、BlindFleshLounge riz-knight vol.25にお邪魔してきた。
 
 そこでkazumaさんから直接YouTubeで公開しているライブの動画をシェアしてくれと依頼されたので、ここで紹介しよう。hfpの音源の発表は1st single「spoiled/蟻は血が重要である/形の無い 何よりも 愛したのは お前だけが」以来2年ぶりだ。それにしても、最新の音源がライブ映像とは! ファンとしては最高の幸せである。
 

DEAD SONG


 
 最初に紹介するのは、GASTUNKの代表曲「DEAD SONG」のカバーである。カバーとはいえ、ギターを弾いているのはなんとGASTUNKのギタリスト・TATSUさんご本人だ。GASTUNKはDEAD ENDと並んで日本のロックシーンに多大な影響を与えた伝説のハードコア/ヘヴィメタルバンドである。私はL'Arc〜en〜CielのHYDE黒夢清春がインディーズ時代に「HUSK」で共演している映像を某有名動画サイトで観て彼らの存在を知った。
 
 原曲はもの悲しい雰囲気のバラードだったはずなのなのだが、それをkazumaさんが歌うと、世界の終末を告げるサタンの咆哮になる(笑)。まさに原曲を完全に自分のものにした、揺るぎないスタイルをもつ最高の歌い手にしかできないパフォーマンスだ。映像でこれほどの大迫力なのだから、目のまえで観ていたらそれはもうすごかっただろう。当日行けなかったのがほんとうに残念でならない。highfashionのライブでも演ってくれないだろうか? aieさんバージョンでもぜひ聴いてみたい。
 

DEAD SONG

DEAD SONG

GASTUNK EARLY SINGLES

GASTUNK EARLY SINGLES

 

My funny Valentine


 
 続いて紹介するのは、ジャズアルトサクソフォーン奏者の矢野沙織さんとのコラボレーションによる「My funny Valentine」のカバーである。hfpのライブではシングル曲優先でたまにしか演ってくれないレアな(?)曲だ。highfashionのみのバージョンではaieさんのギターがもっと凶悪にトガっていて、処刑台に向かって行進していくようなイメージの曲だと思っていたのだが、矢野さんのアルトサックスが加わると、ちゃんとアダルトなムードのシブいジャズナンバーに聴こえるから不思議だ(笑)。
 
 恥ずかしながらジャズの知識は皆無に等しいのでググってみたところ、ジャズシンガーの東エミさんがブログでこの曲を解説していらっしゃるのを見つけた。紹介しよう。
 

1937(昭和12)年に、ブロードウェイ・ミュージカル
『ベイブス・イン・アームズ』用に作られた曲ですが、
その後、マイルス・デイヴィスチェット・ベイカー等、
ジャズマンに深く長く愛され続けている曲の一つでもあります。
 
歌詞は、「ヴァレンタイン」という恋人の名前と、
「ヴァレンタイン・ディ」をかけて書かれているそうですが、
「Valentine」 という単語には他、“恋人、特別な人” という意味もあります。

My Funny Valentine | Groovy Groovy ~and all that jazz~

 
 東さんが翻訳した原曲の歌詞を読むと、この曲はいたいけな少女が恋人にいじらしく睦言を囁いている歌なのだが、それがhfpのバージョンだと、思いあまって想い人を手にかけてしまった恋に狂った少女が、血塗れの手で恋人の苦痛に歪んだ首をかき抱きながら狂気の愛を囁いているヴィジョンが浮かんでしまう。「恋人よ、ずっとそのままでいて」。惨劇の血に染まるヴァレンタイン・デイ(笑)。原曲の甘い雰囲気はどこかに吹き飛んでしまっていると思うが、そんなことはどうでもいいと思えるほどかっこいい曲だ。またライブでも聴きたい。
 

DEAD END Tribute -SONG OF LUNATICS-

 
 カバーといえば記憶に新しいのが、こちらも多くのアーティストにすさまじい影響を与えた伝説のハードロックバンド・DEAD ENDのメジャーデビュー25周年を記念して今年9月にリリースされたトリビュートアルバム『DEAD END Tribute -SONG OF LUNATICS-』である。
 

DEAD END Tribute -SONG OF LUNATICS-

DEAD END Tribute -SONG OF LUNATICS-

 
 以前からリスペクトを公言していたL'Arc〜en〜Ciel/VAMPSHYDE黒夢sads清春LUNA SEARYUICHI河村隆一)をはじめ、同世代ではGASTUNKBAKI、意外なところではALI PROJECT宝野アリカといった、信じがたいほどの超豪華メンバーが結集した、とてつもないモンスターアルバムだ。これまで雑多なアーティストを寄せ集めたトリビュートアルバムにはがっかりさせられることが多かったけれども、このアルバムはなにより参加しているアーティストたちの気合いの入り方が半端なく、聴いていて震えがくるほどの名曲ぞろいだった。まさしく空前絶後のトリビュートアルバムだ。
 
 私の目当てはもちろんHYDE清春だ。HYDEの「Embryo Burning」は堂々たる完コピである。アルバムのトップを飾るにふさわしい非の打ちどころのないできだ。完成度はこのアルバムのなかでは随一だろう。HYDEにはこうしたオムニバスのアルバムに参加するのではなくて、今井美樹みたいに1人で12曲くらいカバーしたアルバムを出してほしいと思う。
 
 清春の「The Godsend」はまんま黒夢である。やりすぎなくらい黒夢である(笑)。ドロドロすぎて逆に清々しいくらいねちっこい歌い方は激しく好みが分かれるのではないかと思う。だが、これくらいガンガン自分のカラーを前面に出しているカバーのほうが私は好きだ。そうでなければおもしろくないじゃないか! 清春はこういう音楽がやりたくてバンドをはじめたのかなと思うと、胸が熱くなった。清春にもHYDEと同じことを期待したいのだが、こういうのを12曲も聴いたら濃すぎて胸焼けを起こしそうだ(笑)。
 
 ほかにも、akiの「Sacrifice Of The Vision」は、いちばん好きだったころのLaputaそのままで、感激した。しかもギターを弾いているのはPENICILLIN千聖じゃないか! 千聖のクールなギターが好きで、PENICILLINもよく聴いていたのだ。cali≠gariは完全にノーマークだったのだが、「Blind Boy Project」はかっこよかった。ほかの曲も聴いてみたくなった。そしていい意味で期待を裏切られたのが宝野アリカである。参加者のなかでは唯一の女性ヴォーカルで心配だったのだが、「Serafine」はただただ美しかった。こんな歌い方もできる人だったのか! すばらしい。
 
 しかし不満だったこともある。それは言うまでもなく、highfashionparalyzeのkazumaさんが参加していないことである。最初に紹介した「DEAD SONG」の動画を観ていただければわかってもらえるだろうが、kazumaさんなら、HYDEにも清春にも勝るとも劣らない、最凶のDEAD ENDを披露してくれたはずだ。正直、「なんでこの人が?」と言いたくなるヴォーカリストが若干名含まれていただけに、ほんとうに残念でならない。絶対に「Spider In The Brain」は本来kazumaさんが歌うべき曲だったと思う。
 
 私は行けなかったのだが、kazumaさんは以前にCalmando Qualのtakさんたちと組んだユニットで、一度だけDEAD ENDのカバーを演ったことがある。Calmando Qualのtakさんも、本来今回のトリビュートアルバムに参加していてしかるべき超絶技巧のギタリストである。
 

 
 kazumaさんのDEAD ENDを聴かないうちは、死んでも死に切れない。GASTUNKの「DEAD SONG」のカバーを聴いて、その想いがさらに強くなった。takさんには、ぜひとももう一度kazumaさんを口説き落としていただきたい。もしふたたび実現したなら、今度こそはなにがなんでも行くぞ!