「人はいかに生きるべきか」という問いは、人が生涯をつうじて絶えず問い直すべき問いである。そう言明する者には、求道者としての高潔さや矜持さえ感じられるかもしれない。だが、この問いを問う者が、いつまでもみずからの生き方を決められずにいるとすれば、それはおおよそ人のめざすべきあり方ではない。
- 作者: 加来彰俊,藤沢令夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/09/23
- メディア: 単行本
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人はみずからの生き方を決めなければならない。しかし、「人はいかに生きるべきか」という問いは、それを問う者の生き方を未決定の状態におく。自分はこれからいかに生きるべきか。あるいは、これまで自分は善く生きてきたのだろうか。そう問う者は、それらに対する評価を宙に浮かせ、立ち止まることを余儀なくされる。そして、それらの問いを真摯に問う者は、これから歩んでいくべき道とこれまで歩んできた道の価値を見極めることができないうちは、まえに進むことができなくなるだろう。
無論、それは軽々しく答えられるべき問題ではなく、熟慮に熟慮を重ねた上で答えを出すべき問いである。だが一方で、人はこの問いを問うているときに生きることをやめているわけではない。人はこの問いを問いつつも、みずからの生に絶えず到来する出来事に対処し続けなければならないのだ。そしてなにより、善く生きる人は、みずからの生に到来するいかなる出来事にも善く対処することを放棄すべきではないだろう。ゆえに、このソクラテスの問いにはできる限り速やかに答えが与えられなければならない。
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