平岡公彦のボードレール翻訳ノート

ボードレール『悪の華[1857年版]』(文芸社刊)の訳者平岡公彦のブログ

2013年最高の収穫――アミュー『この音とまれ!』を読む

2013年はまだ半分ちょっとが過ぎたところだが、今年私が見つけた最高のマンガはアミューの『この音とまれ!』(ジャンプ・コミックス)でもう確定のようだ。これだけ夢中になれる作品にはそうそう出合えるものではない。 この音とまれ! 1 (ジャンプコミック…

まだまだある誤訳――ボードレール『悪の華』の邦訳の誤訳について2

「どの翻訳を選ぶか――ボードレール『悪の華』の邦訳の誤訳について」がずいぶんと好評だったので、調子に乗ってもう少し続きを書くことにしよう。幸か不幸か、ボードレールの『悪の華』の誤訳についてはまったくネタに不自由することがない。すでに『悪の華…

音楽のない思春期――押見修造『惡の華』を読む

前回のボードレールの『悪の華』の堀口大學訳をはじめとする既存の邦訳の誤訳を解説した記事に予想外の反響をいただき、驚いている。押見修造の『惡の華』(講談社コミックス)の影響力は私が思っていた以上にすさまじかったようだ。 惡の華 (8) (講談社コミ…

どの翻訳を選ぶか――ボードレール『悪の華』の邦訳の誤訳について

今年アニメ化された押見修造の『惡の華』(講談社コミックス)のおかげで、ボードレールの『悪の華』にふたたび注目が集まっているようだ。訳者の一人として、喜ばしく思う。 惡の華(1) (少年マガジンKC)作者:押見 修造講談社Amazon 押見の『惡の華』は読ん…

國分功一郎の迷走――國分功一郎/宇野常寛「いま、消費社会批判は可能か」を読む1

いつまでもブログをほったらかしにしておくわけにもいかないので、最近読んだ『PLANETS vol.8』に掲載された評論家の宇野常寛による哲学者の國分功一郎へのインタビュー「いま、消費社会批判は可能か」の感想でも書いておくことにしよう。 PLANETS vol.8作者…

納富信留の迷解説――プラトン『ソクラテスの弁明』を読む

光文社古典新訳文庫からプラトン研究者の納富信留によるプラトンの『ソクラテスの弁明』の新訳が刊行されたので、久しぶりに読んでみた。ちょうどなにもかも一からやり直したいと思っていたところだったから、いい機会だったと思う。 ソクラテスの弁明 (光文…

哲学は役に立つか――プラトンの倫理学3

「人はいかに生きるべきか」という問いは、人が生涯をつうじて絶えず問い直すべき問いである。そう言明する者には、求道者としての高潔さや矜持さえ感じられるかもしれない。だが、この問いを問う者が、いつまでもみずからの生き方を決められずにいるとすれ…

倫理と人生の目的――プラトンの倫理学2

人はいかに生きるべきか。プラトンの『ゴルギアス』において、ソクラテスが「少しでも知性をもつ人間をそれ以上に真剣にさせる問題は存在しない」と断言したこの問いから出発する哲学書や倫理学書は無数に存在する。 プラトン全集〈9〉 ゴルギアス メノン作…

プラトンの偉大さ――プラトンの倫理学1

哲学を学ぼうと考える人がプラトンの対話篇を手に取ることは、いくつかある哲学へのよい入口の一つではなく、考えうる最良の入口である。そして、みずから哲学することをはじめたければ、人はできるだけはやくプラトンの対話篇と出会い、ソクラテスをはじめ…

ハイデガー超入門――『暇と退屈の倫理学』をめぐる國分功一郎さんとの質疑応答2

哲学者の國分功一郎さんに再度した『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)についての質問のお返事を待っているあいだに、ちょっとハイデガーの哲学を復習しておこうと思います。 暇と退屈の倫理学作者: 國分功一郎出版社/メーカー: 朝日出版社発売日: 2011/10/1…

ハイデガーと決断――『暇と退屈の倫理学』をめぐる國分功一郎さんとの質疑応答1

昨年哲学者の國分功一郎さんにした『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)についての質問にご回答をいただきました。非常にご多忙にもかかわらず、時間をかけて真剣に答えてくださったことがわかる長文の論考に感動しております。ほんとうにありがとうございま…

消費をどう見るか――宇野常寛/國分功一郎「個人と世界をつなぐもの」を読む2

『すばる』2012年2月号に掲載された批評家の宇野常寛と哲学者の國分功一郎の対談「個人と世界をつなぐもの」における議論のなかでいちばん目を引くのは、やはり消費社会をめぐる両者の見解の対立である。 すばる 2012年 02月号 [雑誌]出版社/メーカー: 集英…

宇野常寛について――宇野常寛/國分功一郎「個人と世界をつなぐもの」を読む1

『すばる』2012年2月号に掲載された批評家の宇野常寛と哲学者の國分功一郎の対談「個人と世界をつなぐもの」を読んだ。 すばる 2012年 02月号 [雑誌]出版社/メーカー: 集英社発売日: 2012/01/06メディア: 雑誌購入: 2人 クリック: 19回この商品を含むブログ …

概念の創造の実践――國分功一郎『スピノザの方法』を読む

「それではこの神のことを、われわれは、その寝椅子の『本性(実在)製作者』、または何かこれに類した名で呼ぶことにしようか?」 ――プラトン『国家』*1 哲学者の國分功一郎の博士論文であり、初の著書でもある『スピノザの方法』(みすず書房)のテーマは…

概念の創造の方法――國分功一郎「ドゥルーズの哲学原理(1)」を読む

ジル・ドゥルーズの哲学は、なによりその難解さで悪名高い。とりわけフェリックス・ガタリとの共同執筆を開始してからのテクストは、もはやそこでなにが論じられているのかさえわからないと匙を投げる人は専門の哲学研究者のなかにさえ多く、あげくの果てに…

知の公共圏の構築――今こそ梅田望夫『ウェブ時代をゆく』を読み返す

書くことは抵抗すること。書くことは生成すること。書くことは地図を作ること。 ――ドゥルーズ『フーコー』*1 なんのためにブログを続けるのか。そう自問するとき、いつも読み返したくなる本がある。梅田望夫氏の『ウェブ時代をゆく――いかに働き、いかに学ぶ…