平岡公彦のボードレール翻訳ノート

ボードレール『悪の華[1857年版]』(文芸社刊)の訳者平岡公彦のブログ

千葉雅也の問題作――千葉雅也『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』を読む1

 紀伊國屋書店が主催する「紀伊國屋じんぶん大賞2013――読者と選ぶ人文書ベスト30」の大賞を受賞した哲学者の千葉雅也のデビュー作『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)を読んだ。
 

 
 この本は昨年2013年に刊行されたときに購入し、年内には読み終えていたのだが、うまく感想を整理することができなくて、書評を書くのがずいぶんと遅くなってしまった。やる気が起こらなかったせいもある。一昨年くらいから哲学そのものに限界を感じていて、本書も「こんなものを読んでいてなんになるのだろう」と思いながら読んでいた。とはいえ、いままでずっと続けていた学問を放棄するというのは、それはそれで勇気がいることである。いまのところ私にはそのふんぎりがつかない。だからおそらく、しばらくはこんな調子でダラダラとこの手の本の感想を書き続けることになるだろう。皮肉な話だが、その意味で本書の「切断の哲学」というテーマには興味を引かれた。
 

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名曲は不滅である――highfashionparalyze/GASTUNK/矢野沙織/DEAD END

 先週11月2日に、名古屋のAnoterInfernoで毎月開催されているhighfashionparalyzeのヴォーカリストkazumaさんのバーイベント、BlindFleshLounge riz-knight vol.25にお邪魔してきた。
 
 そこでkazumaさんから直接YouTubeで公開しているライブの動画をシェアしてくれと依頼されたので、ここで紹介しよう。hfpの音源の発表は1st single「spoiled/蟻は血が重要である/形の無い 何よりも 愛したのは お前だけが」以来2年ぶりだ。それにしても、最新の音源がライブ映像とは! ファンとしては最高の幸せである。
 

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哲学を捨てる勇気――國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』を読む2

 前回は、哲学者の國分功一郎の『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)第Ⅲ章までのドゥルーズ論を読んできたので、今回は第Ⅳ章以降のドゥルーズ=ガタリ論を読んでいくことにしよう。
 

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

 
 今回もずいぶん更新に時間がかかってしまった。時間がかかった理由は、書いているうちにだんだんどうでもよくなってきて、途中で何度も放り出しそうになったからである。考えれば考えるほど、國分の解説がドゥルーズの哲学の理解としておかしかろうが、それ以前にものの考え方としておかしかろうが、どうでもいいことじゃないかという気がしてくる。だいたいの読者はそんなことには気づかずに、勝手になにかをやる気になったり、勇気をもらったりしているのだから、そういう人たちがこの本を読んでなにか有意義な仕事に取りかかるのなら、本書は十分に意義のある仕事だったと言えるだろう。ただ、私にとってはそうではなかったというだけのことだ。
 
 これを書いているあいだ、「こんなことを考えている暇があるなら、もっと有意義なことに時間を使ったほうがいいんじゃないか」という疑問がずっと頭から離れなかった。本書で國分がしていることは、けっきょくのところ問題を的確に把握するための準備でしかない。そしてここで私がしているのは、その準備が不十分だとひたすらケチをつけることだけだ。こんなことをしていてもいかなる問題についての考察も深まらないし、いつまで経ってもなにもできない。誤解のないように断っておくけれども、記事のタイトルにした「哲学を捨てる勇気」とは、國分の『ドゥルーズの哲学原理』に対する論評ではない。いま私に必要だと感じているものである。
 
 それでも、どう読むのが正しいのか自分の頭で考えて判断したいという気がある人は、以下の議論につきあってほしい。せっかく書いた記事だし、読んでもらえれば私も嬉しい。私としてはけっこういいところを突いていると思うのだが、どうだろうか?
 

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克服すべき失敗作――國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』を読む1

 哲学者の國分功一郎によるドゥルーズ論『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)は、『思想』の連載で全部読んでいたので、単行本で新たに書き足されたところをざっと読んで放置していた。
 

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

 
 思えば、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)以来、國分の仕事にケチをつけてばかりいる。私としては、ただおかしいと思ったところや疑問に思ったところをそのとおり書いているだけなのだが、それがほかの人にどう見えているかはわからない。私も、そんなつもりもないのにムキになって國分を目の敵にしているとは思われたくない。だから、しばらく國分の仕事に言及するのを控えていた。まあ、仕事が忙しくてブログを更新するどころではなかったのだが。
 
 だが、そうこうしているうちに『ドゥルーズの哲学原理』の単行本が刊行され、以前に書いた『思想』の連載第1回目の書評を読みにきてくださる方が増えた。あの記事は、『思想』に新しい回が掲載されるたびに続きを書こうと思っていて、途中で放り出したものだ。めんどくさくなったのである(笑)。しかしこのまま放っておくと、私の『ドゥルーズの哲学原理』に対する感想は、あのときの書評のままということになってしまう。それはまずい。ということで、遅ればせながら、ようやくあの記事の続きを書く気になったというわけだ。
 

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2013年最高の収穫――アミュー『この音とまれ!』を読む

 2013年はまだ半分ちょっとが過ぎたところだが、今年私が見つけた最高のマンガはアミューの『この音とまれ!』(ジャンプ・コミックス)でもう確定のようだ。これだけ夢中になれる作品にはそうそう出合えるものではない。
 

この音とまれ! 1 (ジャンプコミックス)

この音とまれ! 1 (ジャンプコミックス)

 

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